開館50周年に寄せて

安村敏信

北斎館 館長

安村敏信

北斎が晩年に訪れ制作活動をした地、小布施に建てられた北斎館は、2026年に開館50周年を迎えます。
北斎は日本を代表する画家として世界的に有名になりましたが、みなさんご存知の「冨嶽三十六景」は彼が70代の頃の作品で、それ以降90歳まで成長し続けているということは、これまであまり知られていませんでした。近年あらためて彼の晩年に注目した見方が広がってきています。
50周年を機に、小布施での晩年の北斎を中心として、北斎館から「北斎の輪」を広げるさまざまな活動に取り組んでいます。


具体的な取り組みの一つとして、今年から海外にも活動領域を広げています。今年はイギリス、来年はフランス、再来年の50周年にどういうことをするかは、色々と考えているところですが、アメリカの北斎コレクションを持ってくる展覧会なども企画しています。

また、若い世代にも身近に感じてもらえるように、北斎と現代アートをつなぐような取り組みもしています。北斎が新しいものを好んでいたので、北斎にインスピレーションを受けた現代のアーティストの作品を紹介したり、作品を展示販売するアートギャラリーやカフェも併設しました。現代を生きる私たちが使えるものを提供する場として、北斎のデザイン力と結びつけていきたいと思っています。北斎館ではミュージアムグッズにも力を入れています。ぜひ北斎作品を気軽に楽しんでほしいですね。

次世代を担う、子どもたちにも「北斎の輪」を広げていきます。館内にキッズルームもオープンします。水戸岡鋭治さんというデザイナーが自分なりに作り上げた新しい北斎感なんですが、そういった場で、子どもたちが遊びながら自然に学んでいく、それが体験になるというのは、教育としても非常にいいことだと思っています。

そして全国へ。今後の抱負として、ぜひ日本全国へも「北斎の輪」を広げたいと思っています。巡回展でもいいですし、北斎コレクションのある美術館との連携も考えていきたいですね。

50周年を機に、世代や地域を超えて、より多くの人に「北斎の輪」を広げていきたいと考えています。

市村次夫

北斎館 理事長

市村次夫

北斎館は、1976年(昭和51年)に小布施町土地開発公社によって、開設されました。

設立の目的は、大きく3つあります。第一は、小布施の宝である葛飾北斎の作品を保存・収集すること。第二は、北斎と高井鴻山の偉業を「顕彰する」(注:展示をして世の中に知ってもらう)こと。第三は、北斎研究の世界的な拠点の一つとなることです。


北斎館の建築構造は、「祭屋台を中心とした北斎作品の収蔵庫である」という思想のもと、作品保護の観点から温湿度の調整がしやすいことに重きを置いて設計されました。開館当初に所蔵していなかった作品も収集・寄託を進めることができ、肉筆画にとどまらず、摺物・版本の収蔵品の評価も高まっております。

開館50周年を迎えるにあたって、世界的な北斎ブームの中、小布施の北斎館をさらに世界に向けて力強く「顕彰」するタイミングです。その方法として、デジタル技術を使用していくことも重要です。作品保護の観点でも有効ですし、作品をデジタル化・複製して海外展示をすることもできます。

また、北斎館では、現代アーティスト × 北斎というテーマで、若い世代の芸術家が新たな作品を作ることを後押ししています。作品はミュージアムショップや併設のアートギャラリーでも販売されており、本来1点しかない美術作品が、それをモチーフにして新たな作品・商品が生まれるといった広がりを生み出しています。

50周年後の50年。北斎館は、「北斎研究の世界的な拠点の一つになる」ことを目指しており、安村敏信館長のご指導の元、学芸員の技能育成や研究者ネットワークを更に広げてまいります。50周年を迎え、新たな広がりを生み出しながら、小布施での北斎を顕彰していく、今後の北斎館にぜひご期待ください。

北斎館50年のあゆみ

記念ロゴマークについて

北斎館50周年ロゴマーク

晩年、北斎が毎日の日課として描き続けた「日新除魔」の唐獅子の目をメインモチーフに。北斎の描く、神獣や動物の真っ直ぐな眼差しは、本質(本能)的に同じことを訴えかけているように感じる。「再びの北斎」=もう一度本質に立ち戻り、現代を生きる私たちが北斎や高井鴻山の偉大さを伝えるだけでなく、「小布施から更に大きな文化をつくり出していく」という強い気持ちを唐獅子の目を通して、人々に問いかける。

記念ビジュアルについて

「春朗」「宗理」「北斎」「戴斗」「為一」「卍」と画号を変えながら、九十歳まで絵を描き続けた北斎が、小布施を初めて訪れたのは、八十三歳の時。 北斎は、限られた人生の中で数々の大作を残しました。
年老いてなお、絵に対する情熱を絶やすことなく、自らの絵の進歩を願った北斎。 50年目の北斎館も、とどまることなく進み続け、北斎を魅了した小布施から更に大きな文化をつくり出していきます。

風流見立狂言 柿山伏
春朗
1778-1793

春朗 時代(19歳〜34歳)

庭先の二美人
宗理
1794-1803

宗理 時代(35歳〜44歳)

『新編水滸伝』初編「巻の一」
北斎
1804-1809

北斎 時代(45歳〜50歳)

『北斎漫画』十一編
戴斗
1810-1819

戴斗 時代(51歳〜60歳)

冨嶽三十六景 常州牛堀
為一
1820-1833

為一 時代(61歳〜74歳)

富士越龍
画狂老人卍
1834-1849

画狂老人卍 時代(75歳〜90歳)